目の前の人
私は人の顔を覚えられません。 午前中、2時間くらい話し込んでいた人の顔を、午後、忘れたりする。寄る年波、でもありますが、どうもこれは昔から。 今、カウンター越しに話しかけてきたオヤジさん。 「この床、懐かしいね。これはボクが生まれて初めてのアルバイトで貼ったんだよ」。えーっ。 「施工受けてた木工所が時間なくなったらしくてね、アルバイト集めた」「あの当時、フローリングなんてのがだいたい珍しいし、床貼ったところも、何枚かの板を、いわゆるさねはぎって昔からのやり方で、ついでた。けれども、ここの床は4枚の板を波釘でしっかりあわせて、一枚のタイルを作ってる。だから決してバラバラにならないんだね」「そのタイルの裏にコールタール塗って、セメントで床に貼っていく。コールタールが熱いから、その役やらされたヤツは気の毒だったな」。 おもしろい、おもしろい。 「トイレの水洗のレバーもね、ほんとにモダンだった」。やっぱりね。 このオヤジさんは、その後デンキ屋さんに就職され、ネオン工事などを手掛けるデンキ士になりました。 「今の長崎屋ができる前」。私が小樽に来たのは駅前開発すんだあとだったからな、知らないころの話だな。 「あそこはいろんな飲食店が集まっていて、そのうえにニッカウィスキーのネオンがあってね、あれはボクが手掛けた」。へえ。 「あれはとっても凝っててね、64段階に変化するの。シロクマが、こうコップを傾けて、シロクマのポーズも4段階に変わってね。黄色い豆電球を大量に使ったウイスキーが、コップから流し込まれるようにみえる。シロクマの顔が、最初に赤くなってね、つぎにおなか、そして体全体が真っ赤に」。へえーっ! そりゃ、楽しいなあ。 「写真も撮ってなかったのが、残念だよ」。ほんとうに。 「上のギャラリー(退職先生たちの虹の会展)見てきたけど、オレのやってるような小さい模型作ってる先生もいるね」。……あ。 今、思い出しました。目の前でお話しているこの人、松ぼっくりのフクロー持ってこられて、(やむを得ず)テーブル一本の市民企画展を始めることの起こりになったオヤジではないか。 http://homepage2.nifty.com/tamagawakaoru/200905.html あのときは、(半ば以上)うーむ、はた迷惑な……、と思ったものだが、人生、出会いは大切にしなきゃ、ならないものですね。